不妊治療について

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どのような不妊症に体外受精が必要となるのですか?

体外受精はどのような不妊症に有効ですか

1978年、卵管が閉鎖しているために、精子と卵子が出会うことができない不妊症に最初の体外受精(IVF)が行われました。現在では一般の不妊治療ではなかなか妊娠できない男性不妊、子宮内膜症、排卵障害、原因不明不妊などにも広く用いられています。一般の体外受精は有る程度精液の状態が良くなければ妊娠は望めませんが、重度の男性不妊には1992年にはじめて成功例が報告された新しい顕微授精(ICSI、イクシーと呼ばれます)が広く用いられています。IVFやICSIなど、卵を体外で操作する不妊治療はARTと呼ばれています。

ARTの選択にはどのような点を考慮すべきですか

不妊症と診断された場合は、通院で一般不妊治療を受け妊娠の成立をはかります。ARTが普及した今日、一般不妊治療を早めに切り上げ、ARTに移行する傾向も見られますが、妊娠はできるだけ自然に近い形が望ましいと考える立場から、また経済的負担や心身の負担の面から一般不妊治療から始められ、もし妊娠できない場合にARTを考慮するのが良いと考えられています。

原則として一般不妊治療で妊娠できない場合にARTを行います

日本産婦人科学会のガイドラインでは一般不妊治療で妊娠が難しい例にARTを用いるとなっていますが、実際にはそれぞれの施設でARTを実施する基準は異なっています。表に示したのはヨーロッパで採用されているARTの一般的な適応基準です。此を参考に、ART へ移行すべき状態であるか否かを考えてみて下さい。

最初から一般不妊治療が難しいと判定された場合はART を選択することがあります

一般に重度の男性不妊や両側の卵管が閉鎖している場合以外は、一般不妊治療の臨床経過を見ながらIVFへ移行する時期を決定します。重度の男性不妊で体外受精が難しいと判断された場合は、初めからICSIを選択することもあります。現在まで報告されているデータでは、IVFせずに全ての症例にICSIを行うことは適当ではないと考えられています。実際の成績をみても、IVFが可能な例にはIVFを、ICSiが必要な例にはICSIを選択する方が良い成績が得られています。

ARTは心身の負担や経済的負担が大きい治療です

ART は年齢などによっても異なりますが、一回の採卵で20~30%程の妊娠率しか期待できず、反復して治療を受けなければならない例も少なくありません。また、健康保険が適応されず、経済的負担も大きい点も問題となっています。

不妊検査だけではARTの適応は決められません

一部の症例を除き不妊検査の結果から直ちに一般不妊治療かARTかを選択することはできません。検査結果が良好でも妊娠しない場合もあり、難しいと判断されていても妊娠することがあります。一般不妊治療が不可能であると判断された場合以外は、臨床経過を見ながらARTへの移行の時期を考えることになります。

一般不妊治療で2年ほど経ても妊娠しない場合はARTに移行するのが一応の目安です

結婚生活5年以上、不妊治療期間2年以上をARTに移行する一応の基準として良いと思われます。一般不妊治療で妊娠する例の大部分は2年以内で、それ以上続けても妊娠する例は少ないというのがその理由です。しかし、30代後半の方は年齢とともに妊娠率が顕著に低下しますのでもう少し早めにART に移行した方が良いと思われます。

総運動精子数が500万個未満の例にIVFを施行した場合、胚移植に到らない頻度が上昇します

総運動精子数が500万個未満では明らかにIVFの受精率は低下し、胚移植に到らない頻度も上昇します。しかし、ICSI を施行した場合には、100万個未満であっても、2,000万個以上でも妊娠率に差は認められません。

精子濃度が極めて低い、IVFで受精率が低い、精液中に精子が認められない場合はICSIの適応です

ICSI の適応はそれぞれの機関に委ねられていますが、1)総運動精子数100万個未満、 2)100万個以上、1,000万個未満の初回のIVFで受精が認められないかあるいは極めて低率で有った場合、 3)1,000万個/ml 以上でも、過去2度のIVFで受精が認められないか、あるいは極めて受精率が低い場合、 4)無精子症で精巣内の精子を使用しなければならないような場合、等が ICSI の適応になります。

専門医、体外受精コーディネーターのアドバイス

通常、不妊治療は従来から行われている一般不妊治療から始めます。現在でも、不妊治療で妊娠した3/4は一般不妊治療で妊娠しています。IVFを1周期受けた場合と卵巣刺激と人工授精などで半年間治療した場合とはほぼ同様な妊娠率です。年齢、不妊期間、不妊原因の重症度などを考慮し少し早めにARTを選択しなければならない場合もあります。このリーフレットの内容も参考にART へ進むか否かはご夫婦で話し合われてご自分の考えで決めて下さい。

体外受精や顕微授精が必要となる状態

  • 卵管性不妊

    • 卵管の手術で成功が望めない重度の卵管の異常(卵管閉鎖や留水腫)が認められる場合 
      ——-> ARTを考慮する
    • 卵管の疎通性が確認されても、卵管の周囲癒着などがあり2年を経ても妊娠しない 
      ——-> ARTを考慮する
    • 卵管手術後1~2年以上経ても妊娠しない場合 ——-> ART を考慮する
  • 原因不明不妊

    • 一般不妊治療期間を2年以上経ての妊娠に到らない原因不明の不妊 ——-> ARTを考慮する
  • 子宮内膜症

    • 軽度あるいは中度の子宮内膜症は原因不明不妊と同様に対応する
    • 重度子宮内膜症の場合には、卵管不妊と同様に対応する
  • 排卵障害

    • クロミフェン6周期ほど、更にhMG-hCG6周期ほど試みても妊娠に到らない場合 ——-> ARTを考慮する
  • 男性不妊

    • 全運動精子数が100万個未満で有るならば、初回ICSI 適用となる
    • 総運動精子数が100万個以上1,000万個未満の場合には、不妊治療期間が2年以上であればARTの適応となる
    • 総運動精子数が1,000万個以上の場合には、原因不明不妊と同様に対応する
  • 頚管性不妊、免疫性不妊

    • 不妊治療期間が2年以上の場合には、ART の適応となります
      (女性の年齢が36歳以上では少し早めにARTを選択する傾向にあります)