不妊治療Q&A

Q&A

【4】不妊症の治療について

15. 性腺刺激ホルモンは男性不妊に有効ですか

 精液所見を不良にする原因として、精嚢刺激ホルモンの分泌が障害されている例があります。精巣は脳下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンで刺激され、精子の形成と男性ホルモンの分泌が起こります。性腺刺激ホルモンの分泌不全が原因の男性不妊は、実際には非常に低い頻度で、おそらく男性不妊の100人に1人程度と思われます。しかし、これが内分泌検査で明らかになった場合、性腺刺激ホルモン剤を用いた療法は有効と思われますが、単に精液所見が不良だからといって本剤を用いるべきではありません。著者も排卵障害の女性患者と同様に男性不妊症例にも性腺刺激ホルモンを使用し、造精機能が改善した例を経験していますが、治療前に確実に診断しておくことが重要です。また、性腺刺激ホルモン剤を直接投与するのではなく、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)を投与し、性腺刺激ホルモンの分泌を促し、精巣機能を亢進させるという方法が試みられていますが、有効性を確認するのに十分な成果は得られていません。

 性腺刺激ホルモンを用いた本邦での臨床統計によると、軽度乏精子症においての精子濃度の改善率は50%、妊娠率は29%という報告があります。外国の集計でも、精子濃度の改善率は36%、妊娠率16%という報告があります。高度乏精子症では、精子濃度の改善率は20%前後、妊娠率は10%以下との報告があります。しかし、その後の対照試験で男性不妊症に対する性腺刺激ホルモン療法で内分泌動態の面からも、また精液所見の面からも有意差は認められておりません。

 本邦はコストもかかり、通院の手間もかかるわりには有効性に疑問がもたれているのが現状です。単なる精液所見の改善を目指して性腺刺激ホルモンを使用するにはデータが不十分といえます。男性不妊に対し高度生殖医療による治療が好成績をあげている今日、単に精液所見が不良であると言うだけで性腺刺激ホルモンを使用すべきでないと思われます。