Q&A
【9】体外受精、ICSI、男性不妊
18. なぜ無精子症や乏精子症になるのですか
無精子症や乏精子症の大部分は精巣に間題があります。精巣の異常がなぜ起こるのかということに関しては大部分の症例では不明ですが、一部の症例では遺伝子が関与していると考えられています。造精に関わる遺伝子はY染色体上にあり、azoospermia factor呼ばれています。その中のDAZ(deliated in azoospermia)遺伝子がクローニングされました。この遺伝子の欠失例は数%前後と少数です。他方DAZ遺伝子の近くのYRRM遺伝子も造精に関与しているといわれています。しかし、無精子症や高度乏精子症の大部分にはこれらの欠失は認められず、責任遺伝子は他にもあるのではないかと考えられています。結局のところ造精機能障害の大部分はいまだに原因が不明のままです。
注:I976年、TiepoloとZuffartiは無精子症患者において、Y染色体の長腕の末端部が欠失していることを始めて報告しました。この部分に含まれている精子形成に必要な遺伝子を、azoospermia factor(AZF)と呼ぶようになりました。その後、Y染色体の一部が欠失することにより、造精機能障害が起きることが相次いで報告されました。1995年、ReijoらはY染色体の長腕上のインターバル6という部分に造精に関わる遺伝子をクローニングし、これをDAZと命名しました。無精子症患者のDAZ遺伝子の欠失は、諸家の文献では5~20%です。DAZ遺伝子欠失の全てが無精子症になるわけではなく、高度乏精子症の患者にも認められます。1996年、VogtらはY染色体上にAZFa,AZFb,AZFcという造精機能に関与している3つの部分があると報告しました。DAZ遺伝子はAZFc領域に存在しています。
さらに、Y染色体上のYRRM(RNA recognition Motif,RBMとも呼ばれる)と呼ばれる遺伝子も造精に関与していると報告されました。YRRMには多数の類似のコピーがあり、Y染色体上に広く分布しています。その中のRRM1と呼ばれる遺伝子は、AZFb領域に存在しています。
最近、ICSIでY染色体上の造精に関する遺伝子が欠損している男性でも挙児が可能となり、その欠損が児へ遺伝する可能性が十分考えられます。実際、DAZ遺伝子の欠失している患者の精子に、DAZ遺伝子の欠失を認めたという報告があります。