不妊治療Q&A

Q&A

【14】多胎妊娠

1. 欧米では多胎妊娠にどのような対応をしていますか

 Bronsonは多胎妊娠をめぐる欧米の状況をについて、多胎の予防、対処法、法的規制の問題まで幅広く述べています。その要旨は以下の通りです(Bronson R,Hum Reprod12:1606,1997)。

 多胎妊娠の問題点:双胎あるいはそれ以上の多胎妊娠においては早産、妊娠中毒症、胎盤早期剥離などの妊娠の合併症の頻度が高まり、未熟児の出産も多く、児の罹病率も高くなります(Melgar C et al,Obstet Gyneco178:763,1991)。

 減胎手術の問題点:減胎手術を施行した場合の流産率は7.7-22.9%であり、24週未満の未熟児出産も9.O-22.9%にみられ、全く安全というわけでもありません(Evans MI et al, J Soc Gynecol Invest3:23,1996)。

移植胚の制限:イギリスでは胚移植は3個までと法律により制限されており、ドイツでは3個を越える卵子を受精させてはいけないことになっていますが、これらの方法では妊娠率を低下させ、卵巣刺激や採卵というリスクのある方法を反復しなければならないことになります。アメリカでは政府による規制は存在せず、個々の責任で施行しています。自由と権利が優先する国にあっては、規制は受け入れがたいと思われますが、最近の一部の不妊センターでのARTの乱用に関しては監視が必要な状態となっています。

 高齢者に対する対応:自然周期で1個の胚を戻したとしてもその着床率は4-7%といわれています。35歳未満の女性では30-40%の妊娠率を得ることは稀ではありませんが、年齢に応じて胚移植数を考えることも意義のあることです。高齢者には染色体異常の胚の発生率が高くなり、また流産率も高くなります。しかし、提供卵を用いる場合には加齢に伴う変化の影響は減少し、高い妊娠率が得られます。また、高齢者から得られた胚の透明帯は硬く、着床が障害されるのではないかと考えられています。40歳を越える女性にはより多数の胚移植を行うべきであるとの主張もあり(Graft I,Br MedJ303:185,1990)、さらに高齢者にはGIFTと体外受精を併用することも行われています。

 良好胚を得る方法とその選別:胚の形態のみでは良否を決定することはできず、形態的に良好な胚であっても染色体異常が認められる例が少なくありません。染色体異常の頻度は年齢とともに増加します。良好胚を少数移植することができれば多胎の頻度は減少します。培養を延長しその時点でも胚が良好であれば移植するという方法も考えられます。しかし、2日から3日に延長した場合のほうがよいという説に異議を唱えるものもいます。胞胚期までの培養がよいかどうかも不明です。現在のところ、良好胚のみを選別しごく限られた数の胚を移植し、満足すべき妊娠率を得る方法はないということになります。

 法的規制:妊娠はプライバシーが強く関わる問題で、個人が考えなければならないことです。未成熟な法律でねじ曲げられることも危倶されます。硬直化した法律で沢山の凍結胚が破棄されたイギリスの好ましからざる例があります(Edwards RG,Beard HK,Hum Reprod12:3,1997)。現在、多胎を防止する研究が各方面で進行しています。しかし、時機を得た解決ができなければ法制化やいろいろな圧力が加わるものと予想されます。