01. 体外受精(IVF: In vitro Fertilization)
卵巣から採取した卵子と精子を体外で受精させ、受精卵(胚)を子宮内に戻す治療法です。
持参していただいた精液を調整して、良好な運動精子と卵子を一緒に培養し受精してもらう自然の受精に近い方法です。
体外受精の特徴
自然妊娠が難しい場合でも高い妊娠率が期待できます。受精率は平均60~70%ですが、運動精子が少ない場合、卵子が未熟な場合、受精障害がある場合は胚を得られない場合もあります。
体外受精の適応
以下に該当する場合は体外受精をおすすめします。
- 卵管通過障害:子宮内膜症、クラミジア、卵管妊娠後など
- 精子減少症:精子の数が少ない
- 長期機能性不妊(原因不明不妊):タイミング法や人工授精で妊娠しない
- 年齢が高い(35歳以上):子宮内膜症を合併している場合は早めのステップアップを
体外受精のメリットとデメリット
- 妊娠率が高い: さまざまな原因の不妊に対して、妊娠の可能性を高めることができます。
- 凍結胚の保存: 余剰の受精卵を凍結保存することで、将来の妊娠の可能性を残すことができます。
- 多様な治療法の選択: 排卵誘発法(卵巣刺激法)、受精方法、培養方針には様々な方法があり、個々の状態に合わせて最適な方法を選ぶことができます。
- 比較的高額な費用: 43歳未満では保険診療で行うことが可能ですが、タイミング法や人工授精と比較すると、治療費が高額になることが多く、経済的な負担が大きい場合があります。
- 身体的な負担: 女性ホルモン製剤や排卵誘発剤(卵巣刺激剤)の投与による副作用、自己注射など身体的な負担が伴います。
- 精神的な負担: タイミング法や人工授精よりも妊娠率は高くなりますが、治療の成功率が100%ではないため、精神的なストレスを感じることがあります。
- 多胎妊娠のリスク: 複数の受精卵(胚)を移植することで、多胎妊娠のリスクが高まります。ただし、排卵誘発剤を使用して多排卵となったタイミング法や人工授精と比べてリスクは高くありません。
- 子宮外妊娠(異所性妊娠): 子宮外妊娠のリスクが高まるという報告があります。ただし、そもそも体外受精の治療を受ける人は、子宮内膜症や卵管蠕動運動障害などの子宮外妊娠が起こりやすい素因を持っている場合が多いことを考慮に入れる必要があります。
02. 顕微授精(ICSI: Intracytoplasmic Sperm Injection)
精子の数や運動率が芳しくない場合などに行われる治療法で、顕微鏡で見ながら1つの精子を直接卵子に注入して受精させます。顕微授精は、体外受精で受精が成立しない場合の有効な手段です。
顕微授精の特徴
精子の数や運動率が芳しくない場合や、卵子の周囲の膜が厚すぎて精子が卵子の中に入ることができない場合に、精密な技術で受精させます。顕微授精の受精率は平均70~80%です。
顕微授精の適応
以下に該当する場合は顕微授精をおすすめします。
- 重度の精子減少症:精子数がとても少ない
- 精子無力症:精子の運動性が良くない
- 体外受精で受精しない
顕微授精のメリットとデメリット
- 精子の状態に左右されにくい: 精子の数が少なかったり、運動率が低かったりする場合でも、受精率を高めることができます。
- 体外受精と同様のデメリット:比較的高額な費用、身体的な負担、多胎妊娠のリスクなどがあります。
- 卵子へのダメージ: 顕微授精の操作によって、卵子がダメージを受ける可能性があります。高齢の方など、そもそも卵子の質が良くない場合はダメージを受けやすいこともあります。
03. 排卵誘発法(卵巣刺激法)
採卵を行う前に、卵巣を刺激して複数の卵子を育てます。当院では、アンタゴニスト法、PPOS法、ショート法、ロング法、低刺激法、自然周期法など、あらゆる方法で卵巣刺激を行うことができます。
通常、女性は1回の月経周期で1つの卵子が成熟し、排卵します。しかし、体外受精では一度の採卵で多くの卵子を獲得できたほうが、複数の受精卵(胚)を作ることになり有益です。したがって、自然な排卵の仕組みを人為的にコントロールし、複数の卵子を育てるようにします。
なぜ卵巣刺激が必要なの?
- 複数の卵子を得るため:体外受精では、複数の卵子から受精卵を作り、その中から最も発育の良いものを子宮に戻すことで、妊娠率を高めることができます。
- 最適なタイミングで卵子を取り出すため:卵子が成熟するタイミングを調整することで、質の高い卵子を採取することができます。
卵巣刺激の手順
1
月経開始後
月経周期に合わせて、卵胞の発育を促すホルモン剤(FSH、hMGなど)を注射で投与します。
2
卵胞の発育観察
超音波検査で卵胞の大きさを確認しながら、投薬量を調整します。
3
卵子の誘起
卵胞が十分に育った段階で、hCG注射を行い、卵子を成熟化させます。
4
採卵
hCG注射を行った約36時間後に、採卵(卵子の採集)を行います。当院では基本的に静脈麻酔によって眠っている間に採卵を行うため、痛みはありません。
卵巣刺激法の種類
月経開始後すぐに、卵巣刺激を開始する方法です。GnRHアゴニストの点鼻薬を使用して卵巣刺激のアシストと排卵抑制を行います。
月経開始前から、下垂体の働きを抑制するGnRHアゴニストを投与し、その後卵巣刺激を開始する方法です。
卵胞が十分に育った段階で、排卵を抑制する薬剤(GnRHアンタゴニスト)を投与する方法です。
黄体ホルモンを併用した卵巣刺激法のことです。黄体ホルモンは、排卵を抑制する働きがあり、注射ではなく内服によりその効果を得られます。
クロミフェンやレトロゾールを内服して採卵に臨みます。身体への負担は少なく済みますが、多くの卵子を得ることはできません。
卵巣刺激剤を使用せず採卵を行う方法です。費用が少なくて済むことが利点ですが、採れる卵子の個数は1個程度となります。
04. 胚凍結保存
生殖補助医療において、受精卵(胚)を凍結保存することは、非常に一般的な手法となっています。採卵して得た余剰胚を一旦凍結保存して、将来複数回に分けて胚移植が可能になります。そのため採卵周期を減らすことができ、身体的・経済的負担を軽減させます。また、半永久的に胚の劣化を防ぐことができます。ライフプランや体調に応じて適切なタイミングで融解胚移植を行うことができます。
胚凍結保存のメリットとデメリット
- 妊娠率の向上:
– 子宮内膜の状態に合わせて移植: 採卵周期は、ホルモンバランスが乱れやすく、子宮内膜の状態が必ずしも妊娠に最適とは限りません。採卵周期とは別の周期に凍結胚を融解して移植することで、子宮内膜の状態が良好な時期に移植を行うことができ、妊娠率の向上につながります。
– 複数の胚を移植する必要がない: 凍結保存することなく新鮮な胚を複数移植すると、多胎妊娠のリスクが高まります。凍結胚を1つずつ移植することで、多胎妊娠のリスクを低減できます。
- 経済的な負担の軽減:
– 採卵回数の削減: 1回の採卵で複数の胚を凍結しておけば、再度採卵を行う必要が減り、経済的な負担を軽減できます。
- 精神的な負担の軽減:
– 治療のスケジュールを柔軟に: 凍結胚があれば、仕事や生活の都合に合わせて治療のスケジュールを立てることができます。
- 将来の妊娠に備える:
– 次の子の妊娠: 将来的に次の子供を希望する場合、再度採卵を行うことなく、凍結胚を移植することで妊娠することができます。
- 凍結・融解によるダメージ:
– 生存率: 凍結・融解の過程で、一部の胚がダメージを受け、生存率が低下する可能性があります。凍結ストレスに耐えられず壊れた胚は移植できません。
- 費用:
– 凍結保存費用: 凍結時と1年ごとに更新費用がかかります。保険診療で定められたルールに沿い、費用は決められています。
05. 胚移植
体外受精などで得られた胚を子宮に戻すことを「胚移植」と言います。
近年、日本では凍結保存技術が進歩し、凍結融解胚移植の方が新鮮胚移植よりも妊娠率が高くなっています。よって、採卵周期で得た胚は凍結保存して次周期以降に融解胚移植をする方法が主流になっています。当院では、希望があれば新鮮胚移植を行うことも可能です。
胚移植の目的
- 妊娠の実現:胚を子宮内に戻し、子宮内膜に着床させることで妊娠を目指します。
- 多胎妊娠の防止:一度に複数の胚を移植するのではなく、1つまたは2つの胚を移植することで、多胎妊娠のリスクを減らすことができます。
胚移植の手順
1
胚の培養
体外で受精させた胚を数日間(初期胚を作るならば2~3日間、胚盤胞を作るならば5~6日間)培養します。
2
子宮内膜の準備
女性ホルモン剤を用いて、子宮内膜を妊娠に適した状態に整えます。希望があれば「自然周期法」も可能です。
3
胚移植
お腹の超音波で見ながら、細いカテーテルを用いて胚を子宮腔内に置きます。痛みはほとんどありません。
4
妊娠判定
胚移植した約2週間後に、尿検査で妊娠判定を行います。
胚移植の種類
- 新鮮胚移植:採卵して数日後に胚を移植する方法です。
- 凍結胚移植:胚を凍結保存しておき、適した時期に融解して移植する方法です。
胚盤胞移植のメリットとデメリット
胚盤胞まで培養して移植するメリットは、初期胚で移植するよりも妊娠率が5~20%程度高くなることです(年齢が若いほど成績に差が出やすい傾向があります)。デメリットは、胚盤胞まで到達する胚は多くないということです。年齢にもよりますが、一般的に5個卵子がとれた時、3個程度初期胚になりますが、胚盤胞まで育つのは1個程度となります。その1個の胚盤胞を移植して妊娠しなかった場合はまた、採卵周期に入るので、結果的に採卵を行う回数が増える可能性があります。初期胚まで培養するか胚盤胞まで培養するかは、担当医と相談して決めていきましょう。