01. ホルモン補充療法(HRT)
更年期障害の主な原因は、エストロゲンの分泌減少であるため、少量のエストロゲンを補う治療法(ホルモン補充療法:HRT)が行われます。HRTは、ほてり・のぼせ・ホットフラッシュ・発汗など血管の拡張と放熱に関係する症状に特に有効ですが、その他の症状にも有効であることがわかっています。エストロゲン単独では子宮内膜増殖症のリスクが上昇するため、子宮のある方には黄体ホルモンを併用します(エストロゲン・黄体ホルモン併用療法)。手術で子宮を摘出した方には、黄体ホルモンを併用する必要はありません(エストロゲン単独療法)。HRTに用いるホルモン剤には飲み薬、貼り薬、塗り薬などいくつかのタイプがあり、またその投与法もさまざまです。よく話し合いながら、その方に合った最適な治療法を選択していきます。HRTに関しては、一時乳がんなどのまれな副作用が強調される傾向にありました。しかし近年、更年期にHRTを開始した人では10年間HRTを行っても乳がんになる確率が高まらない、または高まるとしても欧米的な食事、肥満などの他の乳がんリスクファクターに比べて確率が低いと言われています。HRTは心臓・血管の病気や骨粗しょう症など老年期に起こる疾患が予防できるという利点があって、その効果が再び見直され始めています。
02. 漢方薬
漢方薬はさまざまな生薬の組み合わせで作られており、全体的な心と体のバランスの乱れを回復させる働きを持ちます。多彩な症状を訴える更年期女性に対しては、「婦人科三大処方」とも呼ばれる当帰芍薬散・加味逍遥散・桂枝茯苓丸を中心に、さまざまな処方が用いられます。比較的体力が低下しており、冷え症で貧血傾向がある方には当帰芍薬散を、比較的体質虚弱で疲労しやすく、不安・不眠などの精神症状がある方には加味逍遥散を、体力が中等度以上でのぼせ傾向にあり、下腹部に抵抗・圧痛のある方には桂枝茯苓丸がすすめられます。とにかくイライラする方には抑肝散もよいでしょう。
03. 抗不安薬、不眠症薬
気分の落ち込み・意欲の低下・イライラ・情緒不安定・不眠などの精神症状が最もつらい症状である場合には、抗うつ薬・抗不安薬・不眠症薬なども用いられます。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの抗うつ薬は副作用も少なく、またほてり・発汗など血管の拡張と放熱に関係する症状にも有効である場合があります。